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大阪高等裁判所 昭和39年(行ソ)1号 判決

再審原告

東野清作

ほか二名

代理人

亀田得治

ほか四名

再審被告

渡辺忠兵衛

代理人

南利三

ほか二名

再審被告

大阪市東住吉区農業委員会

右代表者会長

道庭富太郎

再審原告らは、再審被告間の当裁判所昭和三七年(ネ)第六三一号農地買収処分取消請求控訴事件について、同三八年一〇月四日に言渡された確定判決に対し、再審の申立をしたから、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

再審原告東野清作の本件訴を却下する。

再審原告村田定、同村田繁子の本件請求を棄却する。

再審訴訟費用は再審原告らの負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

(再審原告ら)

1  原判決(前記確定判決)を取消す。

2  再審被告渡辺忠兵衛の請求を棄却する。

3  訴訟費用は全部再審被告渡辺の負担とする。

(再審被告渡辺)

1  本件再審の訴を却下する。しからずとするも、本件再審の請求を棄却する。

2  訴訟費用は再審原告らの負担とする。

第二、再審原告らの主張(再審事由)

一、再審被告渡辺は再審被告委員会を相手方として、自己所有の大阪市東吉区平野西脇町二八三番地田六畝一八歩(以下本件土地という)につき、同委員会が昭和二二年九月二八日に定めた買収計画の取消を求める訴訟を大阪地方裁判所に提起し、同裁判所はこれを昭和二三年(行)第一四〇号の二八農地買収処分取消事件として審理し、昭和三七年五月一一日原告勝訴の判決を言渡した。これに対し、再審被告委員会は大阪高等裁判所に控訴し、同裁判所は同年(ネ)第六三一号事件として審理した結果、昭和三八年四月六日右控訴を棄却する旨の判決を言渡したが、同判決は同委員会が上告しなかつたので確定した。

二、再審原告東野は、昭和二七年七月三一日強制譲渡により本件土地の所有権を取得し、翌二八年一月三〇日その旨の所有権取得登記を経、再審原告村田両名は再審原告東野から本件土地を買受け、昭和三五年一一月一八日売買を原因とする持分二分の一宛の同日付所有権移転登記を経たものである。従つて、再審原告らは本件土地の前記買収計画を取消した確定判決により右権利を害される第三者である。

三、しかして、再審原告らは、昭和三九年五月三日再審被告渡辺から国および再審原告らに対する大阪地方裁判所同年(ワ)第一、四〇五号土地明渡等請求事件の訴状の送達を受けるまで、前記確定判決のあつた訴訟(以下従前の訴訟という)の係属を知らなかつたため、同訴訟に参加することができなかつた。そして、再審原告らが右参加できなかつたのは、従前の訴訟の当事者から訴訟告知なく、また、行政事件訴訟法二二条の職権による訴訟参加の機会も与えられなかつたためであるから、全く、自己の責めに帰することのできない理由によるものといえる。

四、その結果、再審原告らは、従前の訴訟において、明らかに判決に影響を及ぼすべき左記防禦方法を提出することができなかつた。

(一)  前記確定判決が支持した一審判決は、従前の訴訟の被告の本案前の抗弁に対し「異議訴願を経た本訴の出訴期間は買収計画を知つた日から起算すべきでなく、訴願裁決を知つた日から起算すべき」とし、「本件買収計画に対する訴願の裁決書が原告に送達された日は被告の明らかに争わない通り、昭和二三年六月二〇日以後であると認められる。本訴が提起されたのが昭和二三年七月一九日であることは記録上明らかであるので本訴は出訴期間内に提起された」としているのである。しかし、従前の訴訟において、被告は出訴期間を買収計画を知つた日から起算すべきものと主張していたため、訴願裁決書が原告に送達された日を争つていなかつたのである。

よつて、再審原告らは、本件買収計画に対する訴願裁決書が再審被告渡辺(従前の訴訟の原告)に送達された日が昭和二三年六月二〇日以後であることを否認する。それは、おそくとも同月一九日より前に送達されていたのでもあるから、同年七月一九日に提起された従前の訴訟は法定の出訴期間を徒過した不適法なものとして却下されるべきである。

(二)、従前の訴訟において、当事者双方は、本件買収計画が本件土地を自創法三条一項一号に該当するものとして定められたことを争つていないが、再審原告らはこの点を否認する。本件買収当時農地委員会は、事務繁多のため適用条文を粗漏にしていたことが多く、農林省の指示により休閑地利用等は同法三条五項五号(地主の不耕作地)として買収すべきことになつていたのを漫然と同法三条一項一号該当とすることがあり、本件もその一例である。

仮に、本件買収計画が、自創法三条一項一号により定められており、本件土地が小作地ではないとの理由で取消されるべきものとしても、本件土地は、同条五項五号の地主の不耕地としてならば、当時の国の方針として当然買収を許される範囲内のものであつた。ところで、行政処分取消請求事件においては、その行政処分に瑕疵があつて取消されるべきときでも、その他の事由によつてなおその処分が維持できるときは、右取消請求を棄却すべきである。よつて、再審原告らは、本件買収計画も同法三条五項五号該当としては十分適法であるから、右法理により再審被告渡辺の右取消請求は棄却されるべきである(最高裁二小判決昭和二九年二月一九日言渡、民集八巻二号五三六頁参照)と主張する。

(三)、仮に、本件土地が地主の不耕作地でなく、いかなる意味においてもその買収計画が違法たるを免れないとしても、既に買収処分後十数年を経、関係者多数を生じているので、もしこれを取消すと、その安定している法律関係を一挙に覆えし、公の利益に著しい障害を及ぼすこととなる。そのゆえにこそ、旧行政事件訴訟特例法にも公共の福祉のため行政処分を取消すことがでないときは右取消請求を棄却しうる旨を規定しており、本件は正にこれに該当するものと解すべき場合である。(広島高裁判決昭和二四年五月九日言渡、行裁月報二二号七七頁、同高裁判決同年六月九日言渡、同月報二二号一〇七頁参照)

しかるに、従前の訴訟において被告は、この点に関し防禦方法を提出しなかつたので、再審原告らは、右事情を挙げて本件買収処分の維持されるべきことを主張する。

よつて、以上の防禦方法を提出するため、本訴再審の申立に及んだ。

五、再審被告渡辺の主張二項の事実中、その主張のような記載のある再審被告渡辺から再審原告東野に対する訴状が同原告に送達されたこと、右送達の日時もその主張のとおり当該訴訟記録の郵便送達報告書に記載されていることは認めるが、その余は否認する。

仮に、再審原告東野が右訴訟を提起されたことにより、従前の訴訟の係属を知つていたとしても、それだけで、同原告が従前の訴訟に参加しなかつたことにつき自己の責めに帰する理由があるとすることはできない。何故ならば、行政訴訟は、国もしくは公共団体が被告であり、しかも行政処分には公定力があるから、一般私人がその公定力を信じ、かつ、公の機関が遂行している訴訟にわざわざ参加する必要はないと思料しても、むしろ当然だからである。行政事件訴訟法の発足した昭和三七年一〇月までは、行政訴訟の係属を知りながらこれに参加しなくても、その第三者は、その確定判決の拘束力・既判力を受けることなく、従つて、全く別訴として一切の訴訟法上の攻撃防禦の方法を提出することが認められていたのに、右新法の発足により突如第三者間の確定判決の拘束力を受け、かつ、右一切の抗弁を提出しえなくなつたのである。新法はかかる不合理を緩和するため、二二条に第三者の訴訟参加制度を認めているのであるから、もし、行政判決の効力を第三者に及ぼそうとするのであれば、当事者は右二二条の参加決定を求めるべきであり、右決定のなされないときは、第三者は特段の事情のない限り同法三四条の規定により再審の訴を提起できるものと解すべきである。そうでなければ、右第三者は自己の権利・財産権について裁判を受ける権利(憲法三二条)を事実上奪われる結果となり、延いては憲法二九条の財産権保障の規定に違反することになるといわなければならないからである。

第三、再審被告渡辺の答弁ならびに主張

一、再審原告らの主張中、一項の事実、二項のうち本件土地(現在宅地一九八坪と地目変更がなされている)につきその主張の各登記のあること、三項のうち再審被告渡辺が再審原告らを相手方としてその主張の訴訟を提起していることおよび従前の訴訟において再審被告渡辺が再審原告らに対し訴訟告知をしなかつたことは認めるが、その余は否認する。

二、再審原告らは、従前の訴訟の係属を知つていて、これに参加する機会が十分にあつたのであるから、判決確定に至るまで参加しなかつたことは、自らの怠慢によるものである。即ち、

(一)、再審被告渡辺外一八名が再審原告東野外三六名を相手方として昭和三三年三月二九日大阪地方裁判所に強制譲渡処分等無効確認等請求事件(同年(行)第三二号事件)を提起し、その訴状の請求趣旨中に「原告渡辺(本件再審被告)所有の大阪市東住吉区平野西脇町二八三番地田六畝一八歩(本件土地)につき、被告東野(本件再審原告)に対し昭和二七年七月三一日なした強制譲渡処分ならびに売渡嘱託登記は無効であることを確認する。原告渡辺に対し、被告東野は右土地につき右強制譲渡を原因とする昭和二八年一月三〇日受付第一一三四号所有権取得登記の抹消登記手続をせよ」との記載があり、その請求原因中に「原告渡辺は、所定の異議訴願を経て適法に大阪府農地委員会または大阪市東住吉区農地委員会を被告とする裁決の取消または買収計画の取消を求める訴訟を提起し、目下大阪地方裁判所において審理中である。因に、右訴訟事件の番号は昭和二三年(行)第一四〇号である」旨の記載があり、右被告東野に対する右訴状の送達が昭和三三年六月一〇日午前一一時五九分になされたことは、当該事件記録の郵便送達報告書により明らかである。従つて、再審原告東野が本件従前の訴訟の係属を熟知していたことを認めるに十分である。

(二)、再審原告村田両名は、再審被告渡辺外一八名の右訴訟提起後である昭和三五年一一月一八日再審原告東野から本件土地を買受け、所有権移転登記を了しているのであるから、右買受けるに当り本件土地が如何なる土地であるが、即ち係争土地であるか否かについて十分調査されるべき筈であり、仮に右調査をしなかつたとしても、そのことにつき過失がなかつたとすることができず、少くとも、本件土地が訴訟地であることを知らずに、従前の訴訟に参加しなかつたとしても「自己の責めに帰することのできない理由」に基づくものとは解し得ないものである。

よつて、再審原告らの本件訴は不適法として却下されるべきである。

三、再審原告の主張四項について

(一)、再審原告ら主張四項(一)の訴願の裁決書が再審被告渡辺に送達された日は昭和二三年六月二〇日以後である。本件土地に対する買収計画は再審被告委員会の第四次買収計画の一環であるが、右第四次計画に関する訴願の裁決書は大阪府農地委員会が一切とりまとめて一括して再審被告委員会に送付し、同委員会は同日これを各訴願人に対して郵送に付したものであつて、当時の郵便事情に鑑みると、訴願人が裁決書を受領したのは同月二〇日以後であること明らかである。

(二)、同四項(二)の主張は許されない。自創法の如何なる条項に基づいて買収計画を定めるかは、一つに地区農地委員会の権限に属するものである。従つて、再審原告主張のようなことが許されるとすれば、裁判所が行政庁の権限を侵害し、裁判所自ら行政庁の行政権を行使することに帰し、重大な憲法違反といわなければならない。(最高裁一小判決昭和二九年一月一四日言渡、民集八巻一号一頁参照)

(三)、同四項(三)の主張は、裁判所の専権を非難するもので何らの理由がないのみならず、本件確定判決は、農地解放に便乗し無差別な買収処分をした行政庁の違法処分を是正するものであつて、右確定判決こそ正に社会の秩序を維持し、公共の福祉に適合するものといわねばならない。

第四、再審被告委員会は、適式な呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、かつ、答弁書その他の準備書面も提出しない。

第五、証拠〈省略〉

第六、従前の訴訟

従前の訴訟における当事者の主張ならびに証拠関係は、当裁判所昭和三七年(ネ)第六三一号事件判決およびその引用する原審判決(大阪地裁昭和二三年(行)第一四〇号の二八事件)の各事実摘示のとおりである。

理由

一再審原告ら主張第二の一の事実および同二のうち本件土地につき再審原告らがその主張の各所有権取得登記を経ている事実は、再審原告らと再審被告渡辺との間において争いがなく、再審被告委員会においてはこれを自白したものとみなされる。右事実と成立に争いのない新乙一号証によると、もと再審被告渡辺所有の本件土地(昭和三六年一〇月四日宅地一九八坪と地目変更登記がされている)は、再審被告委員会の昭和二二年九月二八日に定めた買収計画に基づく買収処分により国がその所有権を取得して奥村一郎に売渡したのであるが、その後再審原告東野において昭和二七年七月三一日強制譲渡によりその所有権を取得し、次いで再審原告村田両名が同人から昭和三五年一一月一八日売買によりこれを取得し、更に翌三六年一〇月一四日同両名から成清俊太郎に対し売買を原因とする所有権移転登記を経ていることが認められる。以上によると、前記買収計画を取消した本件確定判決により本件土地の所有権が当然再審被告渡辺に復帰することとなるため、再審原告らは右買収計画が有効であることを前提として順次取得していた所有権を有しなかつたこととされ、それぞれ後者に対する売主としての法律上の利益を害される結果となる(既に取得した売渡代金を不当利得として返還すべき義務を生ずる)から、行政事件訴訟法三四条にいう「権利を害された第三者」に該当するものというべきである。

二再審原告らは、自己の責めに帰することのできない理由により、従前の訴訟に参加できなかつたと主張する。

(一)、再審原告東野が再審被告渡辺からその主張第三の二の(一)記載のとおり本件土地につき強制譲渡処分等無効確認等を請求する訴状の送達を受けたことおよびその日時が右訴訟事件記録編綴の郵便送達報告書に昭和三三年六月一〇日午前一一時五九分と記載されていることは当事者間に争いがなく、右事実によると、同原告は従前の訴訟が大阪地方裁判所に係属中である右訴状送達日から間もない頃には従前の訴訟の係属を知り得たものと推認されるから、右知つていたにかかわらずこれに参加することができなかつた特段の事情の主張立証のない本件においては、同原告が従前の訴訟に参加しなかつたのは、同人の自由な意思によつたものであつて、その責めに帰することのできない理由があつたためと認めることができない。同原告主張の第二の四記載の見解には賛成できない。行政事件訴訟法三四条の規定は、処分取消訴訟に参加することができなかつたことにつき社会通念上責めるべき落度がなかつた第三者の利益を保護するためのものであつて、同原告主張のように、その訴訟が公の機関である行政庁によつて遂行されるので一私人がわざわざ参加する必要がないと思料して参加しないでおきながら、行政庁が敗訴したら自らがやろうというような者までも保護するためのものではない。

してみると、再審原告東野の本件訴は再審事由を欠く不適法なものとして却下を免れない。

(二)、〈証拠〉と弁論の全趣旨によると、再審原告村田両名は昭和三九年五月三日頃再審被告渡辺からの本件土地等請求事件の訴状の送達を受け、これを見て初めて従前の訴訟が係属して本件確定判決のなされたことを知るに至つたものと推認される。再審被告渡辺の第三の二の(二)の主張は、同原告両名が同被告外一八名の前記訴訟提起後に本件土地の所有権を売買により取得したとの一事から直ちにこれを肯認することはできず、かつ、これを認めるに足る証拠もない。

してみると、再審原告村田両名は自己の責めに帰することのできない理由により、従前の訴訟に参加できなかつたものと認めるべきである。

三再審原告村田両名の有する防禦方法(第二の四の(一)ないし(三)の主張)が本件確定判決の結果に影響を及ぼすべきものであるか、否かについて

右原告両名主張(一)は、そのとおり本件裁決書が再審被告渡辺に到達した日が昭和二三年六月一九日より前であつたとすれば、従前の訴訟は出訴期間を徒過したものとなるから、その確定判決の結果に影響を及ぼすこと明らかであり、また、同(二)はその前段主張のとおり本件買収計画が自創法三条一項一号該当としてなされたものでなかつたとすれば、これまた確定判決の結果に影響を及ぼすこと明らかである。

同主張(三)は、次に説明するとおり、理由がないと考えるので、これをもつて確定判決の結果に影響を及ぼすものではないこと明らかである。即ち、旧行政事件訴訟特例法一一条は、取消訴訟において、係争の行政処分が違法とされればこれを取消すのが原則であるが、取消されることによりその係争処分を基礎として成立した法律上・事実上の諸関係がすべてその基礎を失つて覆滅するため、ときに、それが公益や多数関係者の利益に著しい損失をもたらし、公共の福祉に適合しない事態を招くことがありうるので、かかる場合に例外的に右事態の発生を阻止する必要があるところから設けられたものである。しかるに、本件においては、本件農地(田一筆、六畝一八歩)の買収計画取消により、公益が著しく損われるとの主張立証なく、また、関係者も前示のように政府から売渡を受けた奥村一郎、強制譲渡を受けた再審原告東野と同人から順次買受けた再審原告村田両名および成清俊太郎があるに過ぎないから、同人らが右取消により蒙るべき損失をもつてしてはいまだ右取消すことが公共の福祉に適合しないと認めることはできないのである。

四そこで進んで、再審原告村田両名主張の第二の四の(一)と(二)の当否について検討する。

(一)、右(一)の主張について

〈証拠〉によると、本件土地の買収計画は再審被告委員会の前身である大阪市東住吉区農地委員会(以下本件委員会という)が第四次買収計画としてなしたものの一環であるが、その当時大阪府下の買収計画に関する訴願裁決書は府農地委員会から地区農地委員会に二通送られ、地区委員会がそのうち一通を訴願人に対して送付していたこと、本件委員会においても右第四次買収計画に関する訴願裁決書を府委員会から受取ると通常二日以内にうち一通を普通郵便をもつて訴願人に発送するとともに他の一通の欄外にその発送の日付スタンプを押したうえ同委員会に保存していたこと、再審被告渡辺に対する本件裁決書の同委員会に保存されている分の欄外には「23.5.18」なる日付スタンプが押されていることが認められる。ところが、他方、〈証拠〉を総合すると、右第四次買収計画に関する訴願人吉村茂および福井福三郎に対する各裁決書は昭和二三年六月一八日府委員会から本件委員会に送られ、同委員会においては、即日訴願人に対して発送手続をとり、右福井の分は同日、吉村の分は翌一九日それぞれ郵便局で受付けられたものであるのに、本件委員会に保存されている分にはいずれも本件裁決書と同日の「23.5.18」なる日付スタンプが押されていることが認められ、また、〈証拠〉によると、本件裁決書、右吉村・福井に対する各裁決書は、いずれも裁決日付が昭和二二年一二月一日であり、裁決書の番号が本件は七四一号、吉村のは七二九号、福井のは六九一号であるのに比し、同じく第四次買収計画の訴願人である高木徳太郎に対する裁決書はその日付が同年一一月二一日、番第が六二六号であつて前三者より前のものであるのにかかわらず、本件委員会に保存されている分に押されている発送日付スタンプは「23.6.18」であることが認められ、さらに、〈証拠〉によると、同じく第四次買収計画に関する訴願人角田静一に対する裁決書(裁決日付は本件と同じ昭和二二年一二月一日、番号は七九二号)は本件委員会において翌二三年六月一八日角田に対する発送手続をとり、翌一九日郵便局で受付けられたことが認められる。それで、これらの認定事実と右西田証言を合せ考えると、本件委員会は再審被告渡辺に対する本件裁決書の発送手続を昭和二三年六月一八日にとつたものであつて、同委員会に保存されている分の前示欄外にある日付スタンプ「23.5.16」は「23.6.18」とすべきを間違つて押捺されたものと推認され、他にこれを覆すに足る証拠はない。そして、〈証拠〉によると、本件委員会は裁決書をこれに記載の訴願人住所に宛て普通郵便をもつて発送し、当時普通郵便の配達は市内が翌日、府下は二、三日かかるのが通常であつたこと、本件裁決書記載の訴願人住所は「大阪府豊能郡箕面村大字牧落六三四の九」であつたことが認められるから、本件裁決書が再審被告渡辺に到達したのは昭和二三年六月二〇日以降であつたと認めるのが相当である。

してみると、同年七月一九日に提起された従前の訴訟は出訴期間を遵守した適法なものといわなければならない。

(二)、(二)右の主張について

再審原告村田両名は、本件土地の買収計画が自創法三条一項一号該当として定められたとの点を否認し、同条五項五号(地主の不耕作地)該当としてなされた如く主張する。しかし、従前の訴訟における弁論の全趣旨と〈証拠〉によると、本件買収計画は本件土地を同条一項一号に該当するとして定められたものと認められ、同原告ら主張事実を認めうる証拠はない。

次に同原告両名は本件買収計画は同法三条五項五号該当として維持すべきであると主張する。しかし、同条一項一号と五項五号(後に改正された六号)による農地の買収とはその理由を異にし、また、買収した農地の売渡の相手方にも差異を来たすことがありうるのであり、さらに、五項による買収にあたつては都道府県農地委員会または市町村農地委員会が政府において買収することを相当とする認定行為を必要とするのであるから、三条一項一号の農地として定められた買収計画を同条五項五号の農地としての買収計画と見ることは、異議の段階において買収計画樹立の権限を有する異議決定庁たる農地委員会としては格別、裁判所の判断としては許されないというべきである(最一小、二九・一・一四言渡判決参照)。従つて、同原告らのこの主張も理由がない。

五、結論

以上により、本件再審の訴は、再審原告東野については再審事由が認められず、再審原告村田両名については再審事由はあるが、結局確定判決を正当と認めるから、再審原告東野の本件訴を却下し再審原告村田両名の本件各請求を棄却することとし、再審訴訟費用の負担につき民訴法八九条・九三条一項本文に則り、主文のとおり判決する。(乾久治 長瀬清澄 新居康志)

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